第15回
- 第4章 試練に耐えて その2
唯一の貯水池を失っては、工場は全く心臓をとられた身体と同じことである。
しかも資金難の中から、漸く作られた貯水池である。
炭酸マグネシヤの製造には、水は一刻も欠くことが出来ない。
僅か五百斤(300キログラム)を製造するのに百石(18.000リットル)に近い水が必要なのである。然しこれほど大きな打撃の中にあっても、秀蔵は狼狽することがなかった。
『自分がうろたえたら工員達はどうなるのか』
彼は生まれながらにして人に将たるの器を備えていた。戦争で兵が自軍の敗色を敏感に感じるのは指揮者の態度によるのだ。
この木村秀蔵伝記は、2023年3月17日からアマゾンから書籍とキンドル版で発売されます。今後はそちらでご覧ください (企画 東京都 矢竹考司)