アース製薬創業者『木村秀蔵翁の伝記』 ブログ版 第14回

 第14回ー

  • 第4章 試練に耐えて その1

 

 工員たちの申出は、自分達の給料を半減しても工場の経営の足しにして頂きたいというのである。自分達が栄えるのも亡びるのも、皆主人一家と運命を共にしたいというのである。給与は半分になっても、微力ながら以前に倍する協力は続けるというのである。

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 しばし無言で聞いていた秀蔵は、感激に涙を湛えながら口をひらいた。

 

 『有難う。出来るだけは皆に苦しい経済を知らせまいと苦心していたのだが、知られた以上やむを得ない。皆の想像通り、私は全く非常に苦しい立場に立っている。

 しかし私も男だ。立派に切り拓く道は講じよう。皆に、そのような心配をかけては相すまない。皆の申出は身にしみてうれしい。この志だけで、自分は一層勇気を奮い起こさせられる。苦しいであろうがもう一苦労、私と一緒に頑張ってくれないか。私はうれしい。皆の温かい心がうれしい』

 

 夫人あさ子も傍に感激にうなだれて、目頭をおさえた。

 

 『さあ、ともかくもう一度元気を出して働こう。皆が気を揃えてやれば、何事もできぬことはない』

 秀蔵は先に立って工場へ急いだ。

 

この木村秀蔵伝記は、2023年3月17日からアマゾンから書籍とキンドル版で発売されます。今後はそちらでご覧ください (企画 東京都 矢竹考司)