アース製薬創業者 『木村秀蔵翁伝記』ブログ版第16回

第16回

第4章 試練に耐えて その3

 

 流石の秀蔵も今度ばかりは力を落とした。そして、今日まで歩いて来た茨の路を振り返るとはなしに思い出した。実父との生別、丁稚の頃の苦しさ、やさしき母の顔、小寺氏の親切、孤軍奮闘の西野田時代。

 

 しかし、彼は今日まで如何なる困難に出会っても、必ずこれを征服して来た。

 見渡せば渺々(びょうびょう)たる瀬戸内海は眼下に静かに眠って、月明かりに遠く家島も霞んで見える。秀蔵は心の中に少しずつ平静を取り戻した。

 

『私はまだ弱すぎる。こんなことで挫折しては男とはなれぬ。もっと頑張ろう。水が揚がるまで、ここで頑張り続けよう』

 

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 その時である。海岸に歓声が起こった。

『あっ!水があがった。水があがった』

 

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